今月のコラム
11/03

住職記


くらべず
あせらず
あきらめず



 年老いた父親に代わり寺を継ぐために、僧侶の専門学校に入学した人がいた。既に結婚し子どもがいる年齢であったが、それまで寺のこと、仏教のことを全く学んだことはなく、一から学ぼうと願い学校に入った。
 その学校は全寮制であり、年齢も立場も様々な人がいた。若い学生は、年齢的にもその人が教義や作法のことを知っていて当たり前という態度で接してくる。時には知識がない、できないことを馬鹿にするような雰囲気もあった。そういうことが一学期間続き、その人が学校を辞めようと思い郷里の寺に帰った。
 既に仕事を辞めていたその人は時間に余裕がある。重い気持ちを抱えながら、子どもの水泳教室に付き添いに行った。その時、教室の先生が子ども達を励ますために掛けた言葉を聞いて、涙が止まらなかったという。その言葉が「くらべず、あせらず、あきらめず」である。
 我々は誰しも、この自分に頷き、自分に納得して生きていきたいと深く願っている。しかし、他者と自分を比べ劣っていたら劣等感を抱き、あせり、こんな自分でなかったらと、自分で自分をあきらめ、自分を見捨ててしまう。自分で自分を嫌い、見捨ててしまう危機を抱えているからこそ、我々は自分の物差しを超えた仏の教えを聞かねばならない。仏教が素晴らしいから聞くのではない。仏の教えを聞かねばならないものを我々が抱えているから聞くのである。


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